突然、家の一部が停電し照明や家電が使えなくなった、分電盤を確認すると見慣れない漏電と書かれたブレーカーだけが落ちている、そんな経験はありませんか?

漏電遮断器(漏電ブレーカー)が落ちるのは、決して故障ではありません。むしろ、家を電気の危険から守るために、安全装置が正常に作動した証拠です。

この記事では、漏電ブレーカーが落ちた時にご自身で安全にできること危険なサイン、そして専門家へ依頼する際の費用相場や優良な業者の見分け方まで詳しく解説します。

この記事を読み終える頃には、漏電に対する漠然とした不安が解消され、次に何をすべきかが明確になっています。落ち着いて、安全第一で対処していきましょう。

漏電遮断器とは?

漏電遮断器って何?家の安全を守る仕組み

漏電遮断器(漏電ブレーカー)は、電気の行きと帰りの量を常に監視しています。

電気の流れる回路を、閉じた水道管に例えてみましょう。正常な状態では、蛇口から出ていく水の量と、排水溝へ入ってくる水の量は全く同じです。

もし、水道管のどこかに小さな穴が空いて水が漏れていたら、出ていく量よりも戻ってくる量がわずかに少なくなります。

電気も同じで、家電の故障や配線の損傷で電気が本来のルートから逸れて地面(アース)に漏れると行きと帰りの電流に微細な差が生まれます。

漏電遮断器内部の零相変流器(ZCT)という精密なセンサーがこの差を検知すると危険と判断し、0.1秒以内という速さで電気を遮断するのです。

このおかげで、人が感電しても致命的な電流が流れ続ける前に回路が切れます。また、漏電が原因で熱が発生し火災に至る前に電気を止めることができるのです。

家庭用ブレーカーで重要な2つの性能

専門的な仕様は数多くありますが、ご家庭の安全に関わる重要なポイントは主に次の2つです。

定格感度電流

どれだけ小さな漏れを検知できるかという感度です。mA(ミリアンペア)は1000分の1アンペアという非常に小さな単位です。

人の命に関わる感電は数十mAというごくわずかな電流で発生するため、住宅用、特に浴室やキッチンなどの水回りでは、15mAや30mAといった高感度形のものが使われます。

動作時間

漏電を検知してから電気を遮断するまでの速さです。感電から人を守るためには即座の遮断が必要なため、家庭用は0.1秒以内に作動する「高速形」が原則です。

ご自宅の分電盤にある漏電ブレーカーの表面を見てみてください。「30mA」「0.1秒以内」といった表記があれば安全基準に適合しています。

漏電遮断器が頻繁に落ちる場合の原因特定方法は?

漏電遮断器を使った安全な原因特定

漏電遮断器(漏電ブレーカー)が落ちた時、慌てて何度もスイッチを入れ直すのは危険です。感電や火災のリスクを高めるだけでなく、家電製品を故障させる原因にもなりかねません。

まずは漏電の原因がどこにあるのかを安全に特定しましょう。この手順は切り分けと呼ばれ、プロの電気工事士も行う基本的な調査方法です。

分電盤の全てのブレーカーを切にする

分電盤の蓋を開け、全てのブレーカーを切(OFF)の位置に下げます。念のため、乾いた手で作業することを心がけてください。

分電盤には通常、以下の3種類のブレーカーがあります。

ブレーカーの種類 役割
アンペアブレーカー 家全体の契約電流を決める一番大きなブレーカー

電力会社との契約アンペア数を超えた場合に作動します。

漏電ブレーカー 漏電を検知するブレーカー

テストボタンが付いているのが特徴です。

安全ブレーカー 各部屋や回路(コンセント、照明、エアコンなど)につながる小さなブレーカー

電気の使いすぎやショートを防ぎます。

これら全てを切にすることで、回路から電気を完全に遮断し、安全に作業を開始できます。

アンペアブレーカーと漏電ブレーカーを入にする

次に、アンペアブレーカーを入(ON)にし、続いて漏電ブレーカーを入にします。

この段階では、各部屋につながる安全ブレーカーは全て切のままなので、まだ電気は流れません。

もし、この時点で漏電ブレーカーが再び落ちる場合は、分電盤自体や各ブレーカーに分岐する前の幹線部分で重大な問題が発生している可能性があります。これは危険な状態ですので、ご自身でこれ以上触らずに直ちに専門業者へ連絡してください。

安全ブレーカーを一つずつ入にして漏電箇所を特定する

ここからが原因特定で大切なステップです。安全ブレーカーを、一つずつ間隔をあけてゆっくりと入にしていきます。一つ入にして数秒待ちましょう。

問題がなければ、次のブレーカーを入にします。この作業を繰り返します。

そして、ある安全ブレーカーを入にした瞬間に、漏電ブレーカーが再びパンッと音を立てて落ちたら、その安全ブレーカーが担当している回路が漏電の原因です。

これで、家中のどのエリアで問題が起きているのかを特定できました。分電盤の各安全ブレーカーの横に台所、居間、エアコンといったシールが貼ってあれば、より分かりやすいでしょう。

原因回路の家電を全てコンセントから抜く

漏電している回路が特定できたら、その安全ブレーカーは切のままにしておきます。そして、その回路がどの部屋に対応しているかを確認し、その部屋にある全ての家電製品のプラグをコンセントから抜いてください

冷蔵庫や洗濯機、テレビ、パソコンのACアダプター、スマートフォンの充電器などコンセントにつながっているものは一つ残らず抜くのがポイントです。見落としがちな、水槽のポンプや温水洗浄便座なども忘れずに確認しましょう。

この作業により、漏電の原因が家電製品にあるのか、それとも建物側の配線やコンセントにあるのかを切り分けることができます。

漏電ブレーカーが作動する原因

安全な切り分け作業で原因の範囲が絞れたところで、なぜ漏電が起きてしまったのか原因を特定しましょう。

原因を知ることで、今後の対策にも繋がります。特に多い原因は、以下の5つです。

  • 家電製品の劣化や故障
  • 水濡れや湿気の影響
  • トラッキング現象
  • 電気配線の損傷や経年劣化
  • 漏電ブレーカー自体の寿命・故障

もし家電製品に原因がない場合、壁の中や天井裏を通っている電気配線の問題が疑われます。建物の経年劣化により配線の被覆(ビニールの部分)が硬化してひび割れたり、リフォーム時の工事で誤って釘などが配線を傷つけてしまったりすることがあります。

また、あまり考えたくありませんが、ネズミなどの害獣が配線をかじってしまい、中の銅線が剥き出しになって漏電するケースも実際に報告されています。

さらに、漏電ブレーカーも精密な電気機器であるため、寿命があります。一般的に、設置から13年~15年が交換の目安とされています。特に原因が見当たらないのに頻繁にブレーカーが落ちる、あるいは後述するテストボタンを押しても作動しないといった場合は、ブレーカー自体の故障が考えられます。

プロに連絡するかの最終判断

原因と思われる回路の家電を全て抜いた後、分電盤に戻ります。再びアンペアブレーカーと漏電ブレーカーを入にした後、先ほど原因と特定した安全ブレーカーを入にしてみましょう。

漏電ブレーカーが落ちない場合は、先ほどプラグを抜いた家電製品のいずれかが原因です。

一つずつプラグを差し直していき、どれを差した時にブレーカーが落ちるかを確認すれば、故障している家電を特定できます。その家電の使用を中止し、修理または買い替えを検討してください。

家電を全て抜いても漏電ブレーカーが落ちる場合は、壁の中の配線やコンセント、照明器具など、建物側の設備が漏電しています。

これはご自身で対処できる範囲を完全に超えており、感電や火災のリスクが非常に高い危険な状態です。それ以上ブレーカーを操作せず、直ちに信頼できる電気工事会社に連絡してください

この切り分け作業は、単なる応急処置ではありません。ご自身で安全に対応できる範囲を見極め、専門家が必要な状況を的確に判断するための重要なプロセスです。

漏電遮断器交換の際に知っておきたい選び方

漏電遮断器にも種類がある?知っておきたい選び方の基本

ご自宅の漏電遮断器が古くなっていたり、故障が疑われたりする場合、交換が必要になります。その際、ただ同じものに取り替えれば良いというわけではありません。

実は漏電遮断器にはいくつかの種類があり、用途や場所に応じて最適なものを選ぶ必要があります。ここでは、その基本的な選び方を解説します。

目的で選ぶ:感度で変わる高感度形と中感度形

漏電遮断器の重要な性能の一つが定格感度電流です。これは、どのくらいの漏電量を検知して作動するかを示す数値で、単位はmA(ミリアンペア)です。

この感度によって、主に2つのタイプに分けられます。

高感度形(15mA、30mA)

主に感電防止を目的としています。

人体にとって危険とされる数十mAの微細な漏電を検知して回路を遮断します。一般家庭の分電盤や、特にキッチン、洗面所、屋外コンセントなど水気のある場所では、この高感度形(特に15mAまたは30mA)の設置が基本となります。

中感度形(100mA、200mAなど)

主に漏電火災の防止を目的としています。

感度を少し鈍くすることで、大型のモーターなど起動時に微小な漏電が発生しやすい機器による不要な作動(誤作動)を防ぎます。工場や商業施設の主幹ブレーカーなどで使用されることが多く、一般家庭で使われることは稀です。

速さで選ぶ:即座に遮断する高速形が家庭の基本

もう一つの重要な性能が動作時間、つまり漏電を検知してから電気を止めるまでのスピードです。

主に以下のタイプに分かれています。

高速形(0.1秒以内)

感電事故から人命を守るためには、一瞬の判断が求められます。

そのため、住宅用には漏電を検知してから0.1秒以内という速いスピードで回路を遮断する高速形が標準的に使用されます。

時延形(0.1秒~2秒)

少し時間をおいてから作動するタイプです。

これは、工場などで複数の漏電遮断器が階層的に設置されている場合に、末端の小さな漏電で建物全体の電気が止まってしまうのを防ぐ保護協調のために使われます。一般家庭でこのタイプが使われることはまずありません。

機能で選ぶ:過電流保護(OC付き)が現在の主流

現在の漏電遮断器は、単に漏電を検知するだけでなく、複数の機能を併せ持っているのが一般的です。

OC付き(過電流保護機能付き)

OCとはOverCurrent(過電流)の略です。これは、漏電保護機能に加えて、安全ブレーカーが持つ電気の使いすぎ(過負荷)やショート(短絡)を検知して遮断する機能も備えていることを意味します。

現在の住宅用漏電遮断器は、このOC付きが主流です。1台で漏電・過負荷・短絡の3つの電気的危険から家全体を守る役割を果たしています。

法律で定められた漏電遮断器の設置義務

漏電遮断器の設置は、場所によっては電気設備に関する技術基準を定める省令や、内線規程といったルールで義務または強く推奨されています。

特に、感電のリスクが高い以下の場所では、設置が必須とされています。

  • 浴室、洗面所、キッチンなどの水回り
  • 屋外に設置するコンセントや照明
  • エアコンなど、水気や湿気にさらされる可能性のある機器の専用回路
  • 対地電圧が150Vを超える電路(200VのIHクッキングヒーターなど)

これらの場所に漏電遮断器を設置することは、万が一の事故を防ぐための最低限の安全対策です。

特に、建築年数が古いご家庭では、現在の安全基準を満たしていない場合があります。もしご自宅の分電盤に漏電遮断器が一つもなかったり、水回りの回路が保護されていなかったりする場合は、安全のためにも専門家による点検と改修をお勧めします。

漏電遮断器の交換費用相場と優良な業者の見分け方

漏電遮断器の交換は自分でできる?費用相場と優良な業者の見分け方

漏電の原因は判明しても、費用はどの程度かかるのかと不安に思われるかもしれません。ここからは、お金と業者選びについて、分かりやすく解説します。

ブレーカー交換は電気工事士の資格が必須

漏電ブレーカーの交換を含む分電盤の作業は、ご自身で行うことは法律で禁止されています

これらの作業は電気工事士法に基づき、第一種または第二種電気工事士の国家資格を持つ者でなければ行ってはならないと定められています。

無資格での作業は、配線ミスによる感電や火災を引き起こすリスクが極めて高いだけでなく、万が一事故が起きても火災保険が適用されない可能性があります。安全と安心のため、必ず資格を持ったプロに依頼してください。

漏電修理・ブレーカー交換の費用相場

電気工事の料金は、業者や状況によって変動しますが、おおよその相場を知っておくことで不当な高額請求を防ぐことができます。

以下に一般的な費用相場をまとめました。

作業内容 費用相場 備考
漏電原因の調査 8,000円~22,000円 原因箇所の特定作業。修理・交換費用は別途。深夜や休日の対応は割増料金がかかる場合があります。
住宅用漏電ブレーカー交換(単体) 25,000円~40,000円 一般的な30A~60Aのブレーカーの場合。部品代、工事費、出張費込みの総額目安。
安全ブレーカー交換(単体) 10,000円~15,000円 各部屋用の小さなブレーカーの場合。複数個を同時に交換すると割安になることがあります。
分電盤全体の交換 50,000円~100,000円 盤が古い、回路数が足りない場合など。盤の規模や機能により変動。15年以上経過している場合は交換が推奨されます。

※上記はあくまで目安です。正確な料金は、必ず事前に複数の業者から見積もりを取得して確認してください。

信頼できる電気工事会社の選び方

いざ業者を探すとなると、どこに頼めば良いか迷いますよね。

以下の4つのポイントを確認すれば、悪質な業者を避け、安心して任せられるプロを見つけることができます。

これらのポイントは、単に技術力があるかだけでなく、お客様に対して誠実であるかを見極めるための指標です。手間を惜しまず、2〜3社から見積もりを取り、納得できる業者を選んでください。

資格と許認可の確認は絶対!

作業員が電気工事士免状を携帯しているか確認しましょう。会社として、登録電気工事業者の登録を受けているか、または建設業許可(電気工事業)を取得しているかを確認します。

これらは会社のウェブサイトの会社概要欄や、見積もり時に直接質問することで確認できます。

明確な見積書の提示

電話口での概算だけでなく、必ず現地調査の上で書面の見積書を提出してくれる業者を選びましょう。

見積書には部品代、工事費、出張費などの内訳が明確に記載されているかチェックしてください。工事一式としか書かれていない場合は要注意です。

地域での実績と評判

そのエリアで長く営業している会社は、地域の住宅事情を熟知しており、信頼性が高い傾向にあります。

ウェブサイトの施工事例や、第三者機関の口コミサイトなどを参考にしましょう。

アフターフォローと保証の有無

工事後の保証制度があるか、万が一の不具合に迅速に対応してくれるかどうかも重要なポイントです。

「施工後〇年保証」といった具体的な保証内容について、事前に確認しておくと安心です。

漏電を防ぐために知っておきたい漏電遮断器のメンテナンス

将来の漏電を防ぐために知っておきたい法律とメンテナンス

漏電遮断器が正常に機能するかどうかを確認するために、ご家庭でできる簡単かつ重要なメンテナンスがあります。それは、月に一度、漏電遮断器のテストボタン(通常は赤色か黄色)を押すことです。

このボタンを押すと、擬似的に漏電状態を作り出し、ブレーカーが正常に作動するかをテストできます。ボタンを押して、カチッと音がしてスイッチが切に下がれば正常です。

その後、スイッチを入に戻せば電気は復旧します。テストは数秒で終わりますので、家事の合間などに習慣づけることをお勧めします。

もし、テストボタンを押してもブレーカーが落ちない場合は、内部の機構が故障している可能性が高いです。いざという時に機能しないのでは意味がありませんので、すぐに電気工事会社に連絡して交換を依頼してください。

この簡単な月一回のチェックが、家族の安全を守ることに繋がります。

まとめ

この記事では、漏電ブレーカーが突然落ちた際の安全な原因特定の手順から、考えられる原因、修理にかかる費用、そして将来のトラブルを防ぐための知識までを解説しました。

漏電ブレーカーが落ちた際は、まずは安全な手順で原因を切り分けることが重要です。慌てずに、この記事で紹介したステップに従えば、危険を冒さずに原因の範囲を特定できます。

家電を全て抜いてもブレーカーが落ちる場合は、迷わずプロを呼んでください。建物側の配線の問題は、専門家でなければ安全に解決できません。無理な自己判断は感電や火災に繋がりかねませんので、絶対に避けてください。

漏電は目に見えないからこそ、不安に感じてしまうものです。しかし、正しい知識を持ち、適切な対処をすれば過度に怖がる必要はありません。この記事が、漏電トラブルの不安を解消し、安全に電気のある日常を取り戻すための一助となれば幸いです。

もし、ご自身での対応に少しでも不安を感じたり、調査の結果、専門家による修理が必要だと判断されたりした場合はどうぞお気軽にご相談ください。

よくある質問

賃貸住宅で漏電ブレーカーが落ちました。修理費用は誰が負担するのですか?

賃貸物件の場合、原因によって費用負担者が異なります。一般的に、壁の中の配線や分電盤など、建物に元々備わっている設備の経年劣化や故障が原因であれば、大家さん(貸主)の負担となります。

一方で、入居者が持ち込んだ家電製品の故障が原因であったり、入居者の過失(例:コンセントに水をこぼした)によるものであれば、入居者(借主)の負担となる可能性があります。まずは、ご自身で原因の切り分けを行い、建物側の問題が疑われる場合は、すぐに大家さんや管理会社に連絡して指示を仰ぎましょう。

漏電ブレーカーと、よく隣にある安全ブレーカーは何が違うのですか?

漏電ブレーカーと安全ブレーカー(配線用遮断器)は、守る対象が異なります。

漏電ブレーカーは、主に人を守るのが目的です。ごくわずかな電気の漏れ(漏電)を検知し、感電事故や漏電による火災を防ぎます。

安全ブレーカーは、主に電線や家電を守るのが目的です。電気の使いすぎ(過電流)や、コードがショートした際に作動し、配線が熱を持ったり、家電が壊れたりするのを防ぎます。役割が全く違うため、どちらも家庭の安全に不可欠な装置です。

雷が鳴った後、漏電ブレーカーが落ちました。これは故障ですか?

雷による雷サージという現象が原因である可能性が高いです。雷が近くに落ちると、瞬間的に大きな電圧(サージ電流)が電線を通って家庭内に侵入し、漏電ブレーカーが異常を検知して作動することがあります。これは、家電製品を過電圧から守るための正常な動作の一つです。

一度ブレーカーをリセットしてみて、問題なく電気が復旧し、その後も落ちなければ特に心配はいりません。ただし、何度も落ちる場合や、家電の調子がおかしい場合は、雷サージによってブレーカーや家電が損傷した可能性も考えられるため、専門家による点検をお勧めします。